大判例

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仙台高等裁判所 昭和29年(う)351号 判決

偽証罪は宣誓した証人が苟も自己の認識に反して供述する以上は、それが客観的真実に合致すると否とを問わず、成立するのである。従つて、偽証教唆罪を構成するには、教唆者において証人の供述がその認識に反するものであることを知るを以て足り、その客観的真実に合致すると否とはその罪責に影響を及ぼすものではない。

本件において、被告人が赤坂喜信及び赤坂百合子に対し、蛭田勝司に対する強姦致傷等被告事件につき原判示の如く百合子が蛭田勝司と情交関係を結んだのは合意の上であるとの虚偽の陳述をされたい旨委嘱したこと、その際被告人はそのような証言は喜信及び百合子の認識に反するものであると思つたこと、及び赤坂喜信において前記被告事件の原判示法廷において原判示の如く証人として宣誓の上右の委嘱したところと同趣旨の証言をなした際、それは同人の認識に反する供述をしたものであることは、原判決挙示の証拠(ただし、後記の次第で、原審証人赤坂百合子の証言をのぞく)により優にこれを肯認し得るのであつて、所論原判決援用の原審証人赤坂喜信の証言が所論のように措信できないものとは認められず、記録を精査しても原判決のこの点に関する事実認定に過誤あることを疑うべき事由は存しない。

しかし、別件被告人蛭田勝司に対する強姦致傷、恐喝等被告事件における控訴審において、蛭田が昭和二十四年八月八日夜十一時頃福島県石城郡上遠野村大字滝字表鈴木春雄方堆肥場において赤坂百合子(当時十八年)を強姦し、梅毒感染、処女膜裂傷及び大腿、両腕内側等に全治四日間を要する傷害を与えたとの事実につき、右は強姦でなく和姦であるとの理由により無罪の判決の言渡をうけ、該判決の確定したことは記録に徴し明かで、その他記録を精査するに、蛭田勝司と百合子との右情交関係は合意の上であつて和姦であつたが、百合子はその夜両親に問いただされて強姦された旨答えたものであること、前記の如く被告人は百合子に対しても右情交関係が合意の上であると虚偽の陳述をしてくれるよう委嘱し、それにより前記蛭田に対する強姦致傷等被告事件の原判示公判で、百合子も証人として宣誓の上右委嘱したところと同趣旨の証言をしたけれども、それは和姦であることを十分認識していた百合子が自己の認識に従つて証言したまでのことで、自己の認識記憶に反して供述したのではないと認めるのが相当である。原判決援用の原審証人赤坂百合子の証言は措信し難く、なお論旨の縷述非難する裁判官の証人赤坂百合子に対する尋問調書なるものは原審において証拠調をせず、記録中に存しないところである。

されば、赤坂百合子に偽証罪の成立する余地なく、従つて亦被告人にこれが偽証教唆罪の成立するに由なきものである。原判決が被告人の赤坂喜信に対する偽証教唆罪のほか、赤坂百合子に対する偽証教唆罪の成立をも認めたのは、畢竟、事実を誤認したもので、その誤りが判決に影響を及ぼすことが明かであるから、原判決は破棄を免れない。論旨が、蛭田と百合子との情交関係は和姦であつたというのが客観的真実であつて、百合子の前記証言は客観的真実に合し、被告人は百合子に対して客観的真実に合致する供述を求めたことになるのであるから、偽証教唆罪は成立しないと主張するのは当らないが、百合子に対する関係につき偽証教唆罪の成立しない点において、論旨は結局理由あるに帰する。

そこで、刑事訴訟法第三百九十七条第三百八十二条により原判決を破棄し、同法第四百条但書により当裁判所において更に次のとおり判決することとする。(中略)

本件公訴事実中、被告人が赤坂百合子に対し本件蛭田勝司との情交関係は合意であるとの虚偽の陳述をされたい旨委嘱し、これにより同人をして昭和二十五年五月十日福島地方裁判所平支部における蛭田に対する強姦致傷等被告事件の証人として宣誓の上右委嘱したところと同趣旨の陳述をなさしめ、同人をして偽証をなさしめたとの点は、前叙説明の次第でその犯罪の証明が十分でないところ、原判決は被告人の赤坂喜信及び赤坂百合子に対する偽証教唆罪を一個の犯罪と認めているけれども、教唆犯は正犯に対して従属性を有するから、仮令数人に対し一個の行為を以て偽証罪を犯すことを教唆したとしても、その教唆の結果数人が偽証罪を犯すに至つたときは、数個の偽証罪が成立し、教唆者は各別にその刑責に任ずべきであつて、本件起訴状の記載も亦右の趣旨であり、併合罪として起訴したものと認められるので、この点につき被告人に対し特に主文において無罪の言渡をなすべきものである。

(裁判長裁判官 鈴木禎次郎 裁判官 蓮見重治 裁判官 細野幸雄)

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